その町の図書館からは海が見えそれだけだけど思い出となる
奈路 侃(東京都世田谷区)
君いつもいい人だけど地球から決して見えぬ月の裏側
山本 里枝(岡山県美作市)
空っぽの水槽のような夜のバスやけに明るい淋しさが行く
河崎 展忠(岡山県玉野市)
春風に撫でられるため海はありまどかならざる星にあっても
片岡 秀樹(千葉県柏市)
いまだ見ぬ遠野の村の夢を見るただしんしんと雪の降る夢を
小寺 三喜子(岡山県倉敷市)
夏も終りと扇をしまふ美々楽の青波の色をたたむごとくに
飽浦 幸子(岡山県倉敷市)
今は亡き人らもゐるか青海の沖よりわれに波が寄せくる
小寺 三喜子(岡山県倉敷市)
船を売り陸に上がりし老漁夫が頬被りして海を見てゐる
藤林 正則(北海道札幌市)
「せがれの嫁に」と所望されしも遙かなる渋川に来て翁をさがす
樋之津 保子(岡山県岡山市)
住む人の減りゆく街のスーパーに異国の人より釣銭を受く
河崎 由紀(岡山県玉野市)
雪の舞ふ日吹く日は好き日と言ひ波乗りに行く息子は何者
若林 とし子(岡山県岡山市)
「しゃくをくれえ」海から手が出る昔話を大槌島あたりと眺めつつ聞く
藤原 多惠子(岡山県玉野市)
多言語の生徒ら集ふ夜学にていかに語らむ西行の歌
佐藤 香珠(滋賀県長浜市)
二百歳のスダチの古木が頑張って四十キロの実をつけたとさ
板東 典子(徳島県阿南市)