本市は、“晴れの国おかやま”の中でも日照時間が長く、「晴れのまちたまの」と言われています。空が晴れているので、夜空に輝く星も美しく見えます。
玉野で星のように光り輝き、活躍する人「たまのスター」のインタビュー記事を連載しています。
第17回は、東京海洋大学の教授で、タコ類の生態の研究のため、昨年度から定期的に玉野市近海の調査をしている團重樹(だん しげき)さんです。
(取材日 7月22日)
東京海洋大学 團重樹教授と増殖生態学研究室の皆さん
子どものころから釣りや魚獲りが好きでした。タコやギザミなどの水産物を食べるのも好きで、それがきっかけで海と海の生き物について興味を持ちました。
現在は、主にマダコやイイダコなどのタコ類の研究をしています。タコは貝やカニ、エビなどを食べて育つため、タコが多い海は、餌となる多様な小さな生き物の住む豊かな海とされています。しかし、近年は全国的にタコの漁獲量が減少し続けている現状があり、これはあまり良い状況とは言えません。
豊かな海を守るために、タコ類、特に幼生と稚ダコ期の生態解明や、タコの放流と養殖のための飼育技術開発の研究をしています。全国的にタコの漁獲量が減少する中で、瀬戸内海で人とタコが共生できる方法を模索しています。
平成20年から7年間、日の出地区にあった玉野市の水産研究所で勤務し、ガザミの種苗生産(卵からふ化した浮遊幼生を着底稚ガニに育てる方法)の研究や放流に関する調査を行いました。その後、玉野市を離れ、現在は東京海洋大学で教壇に立ちながら研究をしていますが、今回の研究で再び玉野市に調査に来ることになりました。
マダコについては、私が研究を開始した当初は、幼生や稚ダコ期の生態はほとんどわかっておらず、マダコの種苗生産も成功していませんでした。きっとマダコにも、興味深い生態学的特徴が隠されていると思い、生態解明研究や種苗生産技術の開発に取り組もうと考えました。マダコの幼生はカニの幼生が好物であることから、水産研究所時代にガザミの研究で培った技術を活かして、マダコの種苗生産技術の開発に挑戦しようと思ったのです。実際に、玉野市でガザミ幼生の研究をしていた経験が開発成功の重要なカギとなり、技術開発に成功し、現在ではマダコの種苗生産が可能になっています。
稚ダコは見つけるのが難しく、研究はこれまで長い間難航していましたが、近年、カキ殻などが稚ダコにとって生息しやすい環境であることが明らかになりました。玉野市では、水産資源の回復のためにカキ殻を使った漁礁が多く設置されていて、その中から稚ダコが見つかった実績も多かったことから、今回の調査に適しているとの判断により玉野市近海を選びました。また、地元の漁業者の皆さんの協力も非常に心強いです。
海の底に住むタコや、エビやカニなどの小さな生き物が生息できるために、どのような環境の条件が必要なのか、これまで実はまだほとんど知られていませんでした。
今回の調査で、稚ダコの食性や、タコの餌となる小さな生き物の栄養源が海藻であることが分かってきました。玉野市の近海では、メバルやカサゴなどが多く漁獲され、また、ノリの養殖も盛んですが、これは豊かな海の栄養に支えられています。玉野市近海を始めとする、豊かな海を今後も守っていくために、多様性に富んだ生態系が維持される仕組みやメカニズムを明らかにしていきたいです。
その他にも、稚ダコの生態を調べるための行動実験なども行っています。研究の結果、タコにはまだまだ知られていない驚くような能力があることがわかってきたので、今後も玉野市の漁業者の皆さんと協力しながら、身近な水産生物の生態の謎を、どんどん解明していきたいです。
私にとって玉野市は、若いころ研究に没頭した青春の地です。海を望む景色が良く、明け方や日没付近の雰囲気も素晴らしいです。玉野市の人たちの少しのんびりした話し方も魅力的で、好きなところの一つです。
自分にとっての青春の地だったので、玉野市の水産研究所が廃止されたときには、非常に悲しかったことを覚えています。玉野市を離れて8年後に、「たまたまたまの」から「またまたたまの」で、再び調査を実施することになって、ご縁を感じています。
今回、取材をするにあたって、調査中の漁船に同行させてもらい、カキ殻を引き揚げる現場に立ち会いました。研究室の皆さんが、たくさんのカキ殻の中を一つひとつ確認する様子を見て、地道で緻密な作業を経て、少しずつ実態を明らかにしていく取り組みに頭が下がる思いでした。タコは比較的身近な生物ですが、その生態がまだあまり解明されていないというのには驚きました。團先生は、今後も引き続き玉野市での調査を行うとのことです。瀬戸内海の豊かな海を今後も守っていくために、私たち一人ひとりも、ゴミの捨て方や生活排水などに気をつけながら、普段から豊かな海と、そこに住む生き物たちを大切にするよう心がけたいですね。
広報たまの令和7年9月号